アルツハイマー型老年痴呆

症状

アルツハイマー型老年痴呆(あるつはいまーがたろうねんちほう)ではまず、物忘れから始まります。ただし、この段階では人格が維持されており、人との対応に関して特に問題となりません。しかし、進行していくため、次第に目前の人が誰なのかを判断できなくなり、日時もすぐに答えられなくなります。また空間認知障害をきたすため、自分の家に戻れなくなったりします。運動機能は多くの症例で問題ないものの、失語或いは失認を併発しやすくなります。これらの経過は第一期から第三期に分類されていますが、第一期では日常生活に問題は無いものの大脳皮質機能の低下から物忘れや自発性の低下が見られます。抑鬱状態を示したり、不安感を生じることもあります。第二期では大脳皮質の萎縮が進行し、記憶力も顕著に低下していきます。また理解力も低下するため、日常においての会話も困難になります。この時期に夜の徘徊が開始されます。第三期では脳の機能も高度に障害されるため、人間としての行動ができなくなります。寝たきり状態となり、失禁するに至ります。

原因

認知症の多くはアルツハイマー型老年認知症、脳血管性認知症、そしてこれらの混在タイプとなっています。その他、アルコール性認知症やレヴィ小体症、ビタミンB12欠乏症などもあります。本症はその詳細がハッキリ分かっておりませんが、大脳皮質の萎縮を原因とする疾患になります。七十歳以降の女性に多く見られます。一方、脳血管性認知症は小梗塞の多発を原因としています。こちらは六十歳前後以降の方に多く見られます。尚、アルツハイマー病は六十歳未満に見られる狭義の疾患を言い、それ以上の年齢に見られるのは広い意味のアルツハイマー型老年痴呆となります。脳内には老人斑や原線維変化などが見られ、大脳が萎縮しています。発症の原因は分かっていないものの、家族歴や高齢者、アポリポタンパクE4を血清に有すること、頭部における外傷を過去に受けた経緯があるといったものが誘引と考えられています。

治療法

脳血管性認知症のケースでは脳神経細胞の代謝を改善したり、脳血管を拡張させることである程度その効果が得られます。アルツハイマーに関しては原因不明もさることながら、根治させる治療方法は確立されていません。そのため塩酸ドネペジルと呼ばれる薬に有効性は認められていても、いつかは進行していくため食い止めることはできません。塩酸ドネペジルはACh(アセチルコリン)エステラーゼ阻害薬のことで認知機能低下の改善を示します。また精神症状へは漢方の抑肝散や非定型抗精神病薬が用いられます。そのほか、音楽療法や回想法、レクリエーションなどが行われることもあります。

補足

経過

アルツハイマー型老年痴呆の初期では一年から三年ほどかけて海馬の萎縮が見られます。これによって比較的新しい記憶や時間の見当識が障害され、物盗られ妄想などの被害妄想を認めます。身辺の自立は問題がないものの自発性は衰え、だらしなくなります。中期では二年から十年ほどの経過で側頭葉及び頭頂葉の萎縮が起こります。新しいことが記憶できないだけでなく、過去の記憶も障害されていきます。自分の家が分からなくなって徘徊したり、流暢性失語や失算、失認、失行などを生じます。寒さや暑さに適した服装を選択することができなくなり、本人は多幸を示し、事の重大さをあまり意識していません。次第に通常の生活に支障をきたし、介助を欠かせなくなります。後期では八年から十二年かけて大脳全域において重度な萎縮を認めます。こうなると記憶力はほぼ喪失することになり、意思疎通でさえ難しくなります。また家族が誰なのかが認識できなくなり、人間の見当識障害が起こります。更に神経症状や筋強剛、歩行障害、異食などが見られ、言葉を失い動作も無くなります。最後には寝たきりとなります。

よく使われる薬

アルツハイマー型老年痴呆では基本的に軽い病状もしくは中等度以下で、レミニール、イクセロンパッチ、リバスタッチパッチ、アリセプト等が用いられます。ある程度進行している場合、アリセプトが投与され、それ以上であればメマリーなどが用いられるようになります。また、状況によって、例えば攻撃性などが見られる場合、ルーラン、セロクエル、ツムラ抑肝散エキス顆粒、抑うつ傾向が見られるケースでは、レクサプロ、ジェイゾロフト、パキシル、興奮傾向があればリスパダールODなどが適宜投与されます。

アミロイド仮説

これはアルツハイマー型老年痴呆症の発生がエーベータ(Aβ)によるものではないかと考える仮説です。まずこのAβがβセクレターゼやγセクレターゼによってアミロイド前駆体蛋白質を分解することで発生します。この蛋白質は神経細胞体細胞膜に見られるものでAPPと略されます。APPは普通であればαセレクターゼで分解され、Aβは生成されないのですが、上記βセクレターゼやγセレクターゼによって発生してしまうのではないかとするのがこの仮説です。Aβは老人斑を形成し、また異常なタウ蛋白から神経原線維変化を招くとされます。タウ蛋白は微小管に結びつきますが、Aβによって異常にリン化されるからです。これによって異常なタウ蛋白が細胞内に蓄積し、神経原線維変化が生じると、神経細胞を細胞内から傷つけることになります。また、老人斑は細胞外から神経を傷害します。最終的に神経細胞は変性と消失を招きます。つまり、これが拡大することによってアルツハイマー型認知症が発生するというのがアミロイド仮説です。