単純ヘルペス脳炎

症状

単純ヘルペス脳炎(たんじゅんへるぺすのうえん)では髄膜刺激症状、痙攣、嗅覚障害、記憶障害、発熱、意識障害、幻視などを訴えます。更に脳神経麻痺や運動失調症、眼振といった病状は脳幹型において生じます。また検査では蛋白増加と共に単球及びリンパ球における細胞増殖が呈され、髄液圧上昇も見られます。一週間以内に発熱や頭痛、項部硬直、嘔吐、記憶障害、精神異常、痙攣、意識障害などが見られますが、発熱や意識障害より先に記憶障害や異常行動、人格変化、幻覚などを示すことがあります。これは脳実質の側頭葉に障害を招くからですが、初診で精神科を訪れるケースもあるようです。高い頻度で痙攣を認め、一時的なミオクローヌスを示すこともあります。

原因

HSV1型とHSV2型に分類されており、前者による急性脳炎は重症となります。後者では通常、髄膜炎及び脊髄炎となります。年長児および成人においては、ウイルスが三叉神経節などに潜み、これが再び活性化することで、神経を上行して発現すると考えられています。多くが一型(HSV1)の回帰感染となりますが、HSV2で生じることもあります。この場合、新生児の産道感染に起因する全身のウイルス血症から起こります。その他、皮膚感染及び粘膜感染並びに中枢神経感染を惹起するものでは、帯状疱疹ヘルペスウイルス、ヒトヘルペスウイルス、水痘ウイルスなどが挙げられます。発生部位は大脳辺縁及び側頭葉であり、出血壊死を示します。

治療法

単純ヘルペス脳炎ではビダラビンやアシクロビルといった抗ウイルス薬の投与が急性期において実施されます。またステロイドやグリセロールといったものが浮腫に適用され、ジアゼパムやフェニトインなどは重積及び痙攣発作などに用いられます。単純ヘルペス脳炎では全身管理が大切であり、栄養補給や気道確保などが行われます。死に至るケースもあり、生存しても人格変化や記憶障害などの後遺症が残存する可能性が高くなっています。また脳圧亢進や昏睡などが見られると、見通しも悪くなります。尚、脳膿瘍、急性散在性脳脊髄炎、二次性脳炎、そして各髄膜との識別が必要です。

補足

薬と予後

単純ヘルペス脳炎は早期治療が望まれ、疑いが生じれば抗ウイルス薬を投与します。治療の遅れは生命を脅かし、たとえ救命されても後遺症を招きます。抗ウイルス薬ではアシクロビルがあり、不適応であればビダラビンを点滴します。また副腎皮質ステロイドを併せて投与することもあります。これは、炎症に伴って起こる神経細胞障害性に働くIL-6の抑制作用が報告されているからです。その他、抗脳浮腫薬であるグリセロール、抗痙攣薬のフェノバルビタールやジアゼパムなどが用いられることもあります。全ての脳炎のうち、本疾患は約二割程度を占めます。死亡率は三割程度で、社会復帰は半数程度です。予後は抗ウイルス薬を投与してからの意識状態に左右されます。そのため、意識レベルが低下する前に抗ウイルス薬の投与が大切となります。

よく使われる薬

抗ウイルス薬としてアラセナ、ゾビラックス。脳浮腫へはマンニトールやグリセオール、痙攣発作に対してはフェノバルビタールやフェニトイン、ジアゼパム。また、副腎皮質ステロイドと抗ウイルスやくを併せて用いるケースでは脳幹脳炎や脊髄炎が対象となります。